Kodak Tri-X 400
2014年1月25日。おやつ時。
アタシは、JR新宿駅西口に降り立った。
新宿を見てやろう、という意気込みのもと、「新宿の目」を撮っておく。
ほとんど、参拝気分。目様、目様、良い写真が撮れますように。
そして気がついた。「新宿の目」というのは、右目なんだね。
地上へ出て、人波を縫いながら、ガード下を目指す。
行き先は、思い出横丁。
「東口アルタ近道」という看板が見えた。
と思う間もなく、そこが思い出横丁の入り口だった。
その昔は、しょんべん横丁と呼ばれた、飲ん兵衛の街だ。
街というより、街の一角に、それはあった。
どえらく凝縮された、濃厚な飲み屋群が、みっしりとひしめきあっている。
昼間だというのに、のんちゃんべえちゃんが、行き交う路地。
小さな店は、どこもいっぱいだ。
どうも、ここは平成の現代ではない。
昭和のかほりが、ぷんぷん漂ってくる。
のんびり写真を撮っている場合ではない。
酒も飲まないようなカメラ野郎など、この街では門外漢なのだ。
邪魔にならぬよう、こそこそと、だが恐ろしい速さでシャッターをきっていく。
どこを見ても、どこにカメラを向けても、グッとくる眺めの連続。
アタシは、静かに興奮していた。
一度、横丁を離脱。
大ガードの下で、しばし放心する。
パチャパチャとガード下の通路を撮っていたら、ガード下のヌシみたいな仙人に、
ちょいちょいと手招きされた。
「ねえちゃん、俺も撮ってくれや」
・・・え、いいの?
躊躇しながら、カメラを向ける。仙人はピースサインで、満面の笑みだ。
撮った。アタシは確かに撮った。
だが、フィルムを現像してみたら、仙人の写真だけが無い。どう探しても無いのだ。
狐につままれたような気分だ。
気を取り直して、大ガード脇から、再び横丁に入る。
やっぱり、ここは時間に取り残された場所だ。
酒を飲んでいる人達は、昭和からずっと飲み続けているんじゃないのか。
鼻先を掠める、旨そうな匂い。
ああ、いっそ、アタシも昭和に飛び込んでしまいたい。
横丁の脇には、これまた昭和のたたずまいの喫茶店。
みのる、というイカした名前のスナックの入り口を撮ったところで、フィルムが終わった。
たぶん、1時間も撮っていなかったと思う。
昭和な空間では、人も時間の感覚も、平衡感覚を失う。
酔いに巻かれて。

一葉にモドル